草木も眠る丑三つ時に原稿を書きながら、集合時間が近づいていることに気が付いて、慌てて出掛ける準備を始める。窓の外を見ると、空一面に雲が敷き詰められ、夜と朝の境界線が闇に溶けてしまったようだ。今日は朝日を拝めそうにない。
午前4時。私は農園にいた。
土の匂いと野菜の匂いが入り混じった、まさに「畑」の匂いがする。いい匂いだ。生の匂いとでも言うのだろうか、清潔で新鮮な野菜が並んでいるスーパーでは嗅ぐことの叶わない、現場の匂いである。これだけでも早起きした甲斐があった。
見学させてもらったのは、地元古河で代々農業を営んでいる園部農園。息子の豊さんとは地元のイベントを通じて知り合い、畑を見たいと話した所、二つ返事で許可をもらうことができた。何時頃がいいかと尋ねると、
「4時ですね。」
思わず理由を訊くと、
「一般の方が見慣れていない、非日常的な部分を見てもらった方が面白いじゃないですか」
改めて振り返るとなかなかパンチの効いたやり取りであることに気が付いた。この段階で既に非日常のやり取りになっている。とりあえず4時集合ということで決まり、今に至っている。
なす畑。広さにして1反(たん)だそうだ。ピンと来てないことがバレたのか、10アールと言い直されたが、結局ピンと来なかった。とりあえず広いということはわかったので、良しとした。収穫と手入れを同時進行でやって行くので、素人目には十分速いと思っていたのだが、豊さん曰く「説明しながらやってるから普段よりも遅い」らしい。ただでさえまだ薄暗い状態なので、何度写真を撮っても豊さんの手が捉えられない。速さを知ってもらえるということにして、諦めた。
次に見せてもらったのがゴーヤ畑だ。ゴーヤはあまり匂いのしない野菜だと思っていたが、ここまで生長するとゴーヤの香りも嗅ぎ取ることができる。これは緑のカーテンというよりも、もはや緑の壁。そう、「ウォール・ゴーヤ」であった。園部農園では2種類のゴーヤを育てており、「えらぶ」と「あばし」という品種らしい。
えっと...「あばし」は、...いや...「えらぶ」が...そう、どちらかが原種により近い品種そうだ。
畑で過ごした時間は、文字通り時間的にも非日常的なものであったが、非常に新鮮で清々しい時間であった。これが毎日となれば当然の感覚になってしまうのだろうが、こういう時間が日常になっているということの強さと言うか、一般の生活者には持ち得ない感覚は、素直に羨ましいと感じた。
うむ、帰って植物たちに水をやろう。