「小商い」という言葉があります。この言葉を知り、興味を抱いたのは、何年か前に『小商いのすすめ』(ミシマ社)という書籍を読んだのがきっかけだったのですが、読んでみて、これからの時代の地方における「商い」のひとつのあり方を示してくれたような気がしました。

 

私自身、地元や近隣地域で個人経営で頑張っているお店や人を知っていますから、そういった方々のたゆまぬ努力を目の当たりにしていたこともあって、強い共感も覚えました。国家規模で見れば、まだまだ成長を目指している一方、現実としてはごく一部の大企業を除けば、「小商い」規模の企業やお店は現状維持でも手一杯というところも少なくありません。

 

成長を良しとする考え方に異論を唱えるつもりはありませんし、成長に比例して受ける恩恵が大きくなっていくことは間違いありませんが、それだけが良しとされるべきではないとも思います。「現状維持」という言葉を使うと、「踏ん張って、なんとか赤字にしなかった」みたいなイメージを抱いてしまうかもしれませんが、そういった維持や停滞といった状況を、ひとつの良い結果と捉えても良いのではないかと私は思います。

 

別に地方の小商いの方々が維持や停滞という考え方をポジティブに受け入れているとは思っていませんし、新しいモノやサービスを考え、もっと高みを目指している人は大勢いるでしょう。が、しかし、行き過ぎた競争に対しては一歩引いた目で考える必要があることは間違いないとも思います。身を粉にして働くこと悪いとは言いませんし、そこに強い充実感があるのならそれで良いのかもしれません。

 

地方で働くことの良さのひとつに、都会に比べればまだまだ競争が穏やかであることが挙げられます。都内でも小商いの規模でお店を営んでいるところは数多くありますが、かなり厳しい競争に晒されながら経営に勤しんでいることは明らかです。もちろん、昔ながらの、まさに地域に根付いていた「小商い」のお店が閉店を余儀なくされていることも目を背けてはいけない事実ではあります。大抵は「商店街」のような括りにされて、さらに大型ショッピングモールなどとの対立構造の文脈に収束されてしまいがちですが、そこには後継者不足やクルマ社会などを筆頭にした社会の変化に適応できなかったことなどいくつもの原因があって、一言にまとめることは難しいです。でも、そういう閉店していくお店がある一方で、しっかりと生き残っているお店や企業があるのもまた、紛れもない事実なんですよね。

 

ベンチャー地方という言葉を以前の記事で使いましたが、小商いの規模で小さくまとまるということは、何も挑戦をしないということではありません。むしろ、細かなサービスや挑戦を積極的に行って、試行錯誤している所こそが、小さくも生き残っている企業やお店のカギになっているのかもしれません。