ネット社会において知らない人の方が少ないほどの知名度を持つヤフーが、新卒一括採用の制度を廃止するというニュースが発表されました。これは非常に大きなインパクトとなって、同業他社はもちろん、日本社会全体へと一定の影響を及ぼすことは間違いないでしょう。
ヤフーとしては、社会的な意義というよりも、新卒一括採用の費用を抑えるためだとか、経営面での理由もあって(そちらの方がメインかもしれません)決断したのかもしれませんが、利害の一致ということで、一定数の人からは歓迎されると思われます。
新卒一括採用は日本においては通過儀礼のような存在にもなっています。高度成長期の家族経営スタイルであったり、入れさえすれば定年まで、なんなら定年後も安心して暮らせるという時代状況とは大きく変化しているとは言え、それでもなお「新卒で入社すること」の価値は依然として大きなアドバンテージを持っています。これは個人的な経験からも言えることですが、大学を出て就職しなかったという事実は、それだけで家族や親戚、知人友人たちを心配させることになります。それほどまでに、新卒で入社することは、当たり前のことになっているわけです。
ただ、誰かが動かなければ社会は変化しないという説も認められる一方で、今回のように一社だけが一括採用を廃止しても、就活市場の中においてはマイノリティどころかオンリーワンな状況なので、これを他社がどう考え、受け止め、動くのか。後に続く企業が現れなければ、ヤフーの決断は社会的な意味を持ち得ません。
社会学者の常見陽平さんは、このニュースに対する直接のコメントではありませんが、新卒一括採用をなくすことによって「一生就活社会になるリスクがある」「結局、前倒しのアプローチが横行すること」などという危険性を挙げています。
この考え方はある意味では正しいですが、この採用方式は、成長を続ける経済と定年後を確実に支えてくれる年金システムが成立していてこそのものでしたから、その先行きがどうも怪しくなってきて、しかもその打開策も見当たらない状況においては、問題を先延ばしすること、現状維持を決め込む方がリスクが大きくなることも考えられます。一生就活社会というのは、なんともキャッチーなフレーズで、良い具合に不安を煽れそうな言葉なので、さすが常見さんという感じですが。
前倒しのアプローチに関しても、建前としての就活開始のスタートラインを決めてはありますが、結局はアルバイトやインターンシップなど、いくらでもアドバンテージを握れる機会が既に蔓延しているわけで、これはむしろ今更感が強いと言わざるを得ません。
個人的には、こういう時にこそ、もっと大きな枠、俯瞰の視点で見た「働く」ということの意味を社会全体で考えるべきだし、少子高齢化社会に突入している状況での現実的な経済成長の話をできる絶好の機会なのではないかと思うのですが、なかなかそうこまで織り上がることはありません。ただ、これが情報の洪水の中で他のものと同様に「消費されるニュースのひとつ」として流されていいものではないと、どれだけの人が気付けるのかは、試される機会とも言えるかもしれません。